現地・現場レポート

IGRいわて銀河鉄道(岩手県盛岡市)

移動手段が原因で、通院の継続が困難な“医療弱者”
「足」の確保は、買い物難民の解消にも寄与


並行在来線としてJRから独立、積極経営を展開


IGR路線図.jpgいわて銀河鉄道(株)は、盛岡駅(岩手県盛岡市)と目時駅(青森県三戸郡三戸町)を結ぶ延長82㎞の第三セクター鉄道である。元々はJR東北本線の一部区間であったが、東北新幹線の盛岡〜八戸間開業に伴い、並行在来線としてJR東日本から経営分離された。岩手県内を同社が、青森県内は同様に第三セクターの青い森鉄道(株)が運営する。経営母体は異なってしまったが、列車は直通運転されている。

岩手県北部を中心とする沿線は、人口減少と高齢化の進行、モータリゼーションの浸透もあって、鉄道利用は停滞傾向にある。近年の景気悪化による影響もあって厳しい営業環境にある。基本的に他の地方交通と同様、「健全性の維持・確立のために、業務の効率化や利用促進策を推し進めるとともに、経費削減と増収への努力を怠らない」経営を目指している。

具体策としては、利用実態に応じたダイヤ設定、パーク・アンド・ライド駐車場の設置、定期券への特典付与、利用者となる沿線人口の増加のための不動産事業への本格参入などである。この「IGR地域医療ライン」は鉄道利用の起爆剤となるサービスであり、同線オリジナルの、地方鉄道はもちろんわが国の鉄道では初めてのサービスである。
そのサービスだが、沿線から盛岡市の総合病院に通院するお客さまを対象とする。朝(通院)と昼(帰宅)の指定した列車に乗れば、運賃の割引が受けられ、盛岡駅のホームでのタクシー利用と料金割引、列車全席の優先席化、アテンダントの乗車、無料駐車場の確保など、通院を目的とする移動時の安心を最大化したサービスである。

増加する高度医療の受診に通院する高齢者


IGR医療圏.jpg地方交通、特に鉄道の生活者の乖離は深刻だ。若年層のみならず中年層のなかにも、地元の鉄道の利用経験は皆無という人が少ないという。生まれたときからマイカーがある環境で、遠出はクルマ、生活圏における移動のための公共交通利用はバスのみ・・・こうした環境で、公共交通シフト、特に鉄道シフトは容易ではない。
鉄道の良さは、基本的に運転が正確であり、車両にはトイレが常備され、乗り心地が良い(保線状態にもよるが)ことだが、前述のように地方の環境では体験する機会が限られるため、想像に過ぎない人々にいくらコミュニケーションしても、理解は長続きしない。そこで、いかに実体験してもらうかに、事業者は頭を悩ませることになる。

また、地方鉄道は地域密着が経営の前提である。沿線の生活者の日常に溶け込み、モビリティの習慣としての定着を図らなければならない。地域性なくしてのマーケティングは実効性を持たないのである。ゆえに、大都市や他地域でヒットした鉄道サービスを持ち込んでみても、同様のヒットは望めない。

IGR医療ラインの企画も、若手が中心となって、自社のリソースで可能なことをやってみようとスタートした。
「当社の沿線は、高齢化が著しく進展しており、地域医療だけでは対応しきれない患者も年々増加しています。特に県都の盛岡市にある総合病院へ高度医療を受診するために通院する高齢者が目立っています。しかし高齢者にとって、自宅から病院への往復はたいへんな労力が必要です。特に冬期になると、道路の凍結や悪天候で、自分からハンドルを握ることを敬遠される高齢者の方が増えています。また、行政の努力もあって、免許返納制度を利用、代替として公共交通機関を選択する高齢者も増えつつあります。そこで、こうしたみなさんに公共交通機関として地域の足を何とか提供できないかと考えたのがきっかけです」(企画者の一人、同社総務部企画広報担当・米倉崇史氏 )。
また、盛岡都市圏に次ぐ沿線第二の都市規模のある二戸市域から、盛岡市域の医療流入率は28.6%(岩手県患者受療行動調査)と、3 人に1 人に盛岡市での入院経験がある。退院後も、検診などに入院していた盛岡の病院に通院するための移動ニーズも仮説できたという。


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