現地・現場レポート
IGRいわて銀河鉄道(岩手県盛岡市)
お客さまの不安を安心に変える5つのサービス
クリックで拡大企画コンペを2008年の早春に実施、半年をかけて検討した結果、盛夏を迎えた8月に、このIGR医療ラインの企画に決定、実施が決まったのである。
決定と同時にすぐにマーケティング活動に取り組んだ。企画を推進した若手の社員を中心に、列車に乗り込んで3日間、お客さまへのアンケート調査を実施した。現況の把握、交通手段の選択とその理由、同社へのニーズなどをインタビュー。特に、医療機関の利用について、最寄り駅までの交通手段、利用する病院、予約診療の有無、通院の頻度・曜日、着駅からの交通手段、帰宅時の交通手段など、受診に関する一連の流れを把握した。
その結果、通院で利用されているお客さまが交通手段を選択する際の要件として、「安心感」を最も重視していることが判明。「安心」をコンセプトに据えて、ヒアリングを通じて把握できた鉄道利用に関する不安の声を、コンセプトに基づき「安心の声」に転換することで、IGR地域医療ラインのサービスメニューを組み立てたのである。
①アテンダントの添乗
「列車内での体調変化が怖い」「乗り過ごすのが怖い「話し相手がいなくて寂しい」などの不安を少しでも解消するための、FaceToFaceの応対サービスである。アテンダントは、飲料水やひざ掛け等の常備、車内冷房の調整やタクシーの案内の他、お客さまと会話する機会を逃さず、常に安心できる環境を提供する。
②優先座席
「座れるか不安」という意見が寄せられた。盛岡都市圏に入ると、ラッシュ時には大都市並みの混雑になることも珍しくない。そこで、2 両編成の後ろ1 両を通院のお客様等の優先車両に設定した。
③専用無料駐車場
路線バスのネットワークが限られた二戸市域では、駅勢圏(駅を利用する旅客の住居地域を含めた範囲)が広く、駅までの足としてマイカー利用に依存せざるをえない。そこで、一戸駅では、地元の一戸町の協力で、IGR地域医療ラインの専用無料駐車場を設置した。
なお一戸町は、これがきっかけとなってオンデマンドバスの運行を開始した。
④企画乗車券・『あんしん通院きっぷ』
料金の軽減に用意した割引特典の付いた企画乗車券である。通院者本人向けの1 人用と、介護者が同伴できる2 人用を設定した。割引率は1 人用が約15%、2 人用では介護者の復路分が無料になるように配慮した約35%割引である。
朝の盛岡行きは、列車を指定した上で、利用者と一目でわかるようネームタグをつけていただく。
⑤あんしんのリレー
盛岡駅からの通院先は、中核病院の岩手県立中央病院および岩手医大病院が多数を占め、同時に通院先への交通手段に不安を訴える声も集まった。いわば、駅から病院までの移動に一定の需要が確認できたのである。そこで、病院までの交通手段の提供を検討していたところ、地域医療ラインの趣旨に賛同した岩手中央タクシー㈱の協力により、ホーム上でアテンダントからタクシー乗務員にお客様を引き継ぐという、まさに血の通ったシームレスな交通サービスのスキームを構築した。
さらに岩手中央タクシーは、IGR地域医療ラインの利用者に限り、指定の3医療機関まで200円で利用できる「定額タクシープラン」および病院を指定しない「1割引優待券」を提供している。
なお、盛岡市の病院に通う必要に迫られている人に限定したサービスであり、地域の医療機関の経営には影響しないと考えていたが、誤解を生じないように、具体化に際して医療機関とは一切コンタクトを絶っていたという。あくまでも公共交通が独自に実施する地域貢献を踏まえたサービスというスタンスを徹底した。現在も、どこの病院がお勧めなのか等と聞かれても、絶対に具体名を示さないルールである。