現地・現場レポート
IGRいわて銀河鉄道(岩手県盛岡市)
企業文化の風通しの良さがサービスの質に直結
アテンダントは「あんしん通院きっぷ」利用者はもちろん、すべての乗客に目を配る9月にはアテンダントの募集が開始され、業務の特性を踏まえて3名が採用された。全員が女性で、40〜50歳代となった。応募者は高齢者から見ると自分の子供世代に当たる中年が多数を占めた。高齢者のケアに対する意識や経験の有無が、アテンダントの事実上の資格となったようで、採用された3名もその世代に落ち着いた。
このようにして、2008年11月5日、企画から約8カ月という短期間の準備で、行きは午前7時43分金田一温泉(きんたいちおんせん)駅発、9時盛岡駅着(病院の外来診療時間に対応)、帰りとなる午後は2時10分盛岡駅発、3時26分金田一駅駅着の列車を舞台にサービスがスタートした。東北運輸局への届出等の手続き以外、企画した米倉氏ともう一人のスタッフを中心にこなした。当初、社内関係部門に話を持って行くと、“できるはずがない、鉄道はそういうものじゃない”的な説教もあったが、「それは今までの鉄道で、これからは違う」と説明、合意形成に務めた。同社は第三セクターという“お役所系”でもあるが、会社発足時に全国各地から鉄道会社の仕事を希望する若い人が集結。何かを始めようとしたときに、やりたいと言った人が最後まで責任を持って取り組むならば、そのすべてが任せられる、“非役所的”な体質が生まれたようだ。実施側に柔軟で風通しのよい企業文化がなければ、CSを高めるサービスづくりは望めないという示唆ではないだろうか。
お客さまの声を聞いてすぐに改善を実施
アテンダントが携帯するファイルには、メモや切符など必要なツールをすべて揃えているスタート後、いわゆるPDCAを頻繁に行い、サービス内容の更新に務めている。ベースとなるのが、お客さまとの接点となるアテンダントに寄せられる声や経験である。これらの情報は毎月1回のアテンダントと駅長、若手社員などで構成する意見交換会で検証され、改善点はすぐに反映している。
盛岡駅到着後のタクシー乗換では、当初、タクシーの乗務員は改札口でお客さまの出迎えをしていたが、待ち合わせ場所を見つけられず迷子になるケースが多発した。そこで、タクシー乗務員がホームで「のぼり」を持って出迎えることとし、アテンダントからタクシー乗務員へどのお客さまが利用を希望されているのかなどの引き継ぎも行って、迷わず乗り換えができるようにした。
また、『あんしん通院きっぷ』の有効期間は当日のみの設定だったが、検査入院で一泊する際に使用させて欲しいという声から、2009年4月以降は2日間に延長された。通院を前提とする以上、帰りの便では医療費の領収書を必ず確認しているが、病院に泊まったかどうかまでは尋ねていない。よって、盛岡市に住む娘や孫宅に通院のついでに一泊した、友人と久しぶりに時間を過ごした等にも使われるようになり、喜びの声が寄せられている。
さらに、“今回は病院利用ではないが、買い物に行くのに電車に乗った“等、医療ラインをきっかけとした新しい需要開拓も確認されている。
2009年の7月現在、1日12〜13人の利用で定着傾向にある。ビジネスとして見れば、これ以下は避けたい、という評価である。もちろんトップは“儲からないから廃止は絶対にありえない”姿勢だという。
今後、利用者が増加すれば、アテンダントの増員や対象列車の追加も考えられる。あわせて、値下げもストーリーにある。基本的に許容可能な収支ラインを維持できれば、増収分はサービスの充実、利用者への還元に回す考えなのである。
地域の抱える高齢化対応への取り組みが評価されて、2009年度の「日本鉄道賞」では、25件による応募の中から、IGR地域医療ラインは日本鉄道賞表彰選考委員会特別賞を受賞した。
IGR医療ライン的なサービスを導入には、線(鉄道)、網(クルマ)そして点(にぎわい空間)が連携した推進組織の立ち上げが望ましい。決して行政の予算に依存せず、企業を中心とする参加メンバーは自分ができる方法で価値を最大化するように務めていく。その集合体が、医療弱者、買い物弱者の解消を進め、あわせて地域の活性起爆剤になるだろう。
【アテンダントに寄せられたお客さまの声。賛意が多数を占めている】
・ 安心して乗れるようになった。
・ これまでは新幹線で通っていたが、金銭的に楽なので医療ラインに乗り換えた。
・ これまで夫に送迎してもらっていたが運転が不安だった。これからは電車を利用する。
・ 有効期間が2 日間となり病院帰りに息子の家に泊まれて良かった。
・ 娘の仕事を休ませなくて良くなって助かる。