現地・現場レポート
ハッピーライナー(株式会社サンプラザ 高知県高知市)
2.移動販売車・ハッピーライナー
可能な限りお客さまの近くで営業
ええっ、こんな大きなクルマが、こんな路地に入るのか!ひゃあ、そんな狭いスペースが商売の場所なのか。ああ、人の姿が皆無だったのに、到着と同時に路地からたくさんの人が現れた…。
同社によると、ハッピーライナーが支持される理由として次のようなお客さまの声を挙げている。
・近くに店がない
・地元商店に魚など生鮮食品の品揃えが少ない
・共働きで、町まで買物しに行く時間がとれない
・色々な商品を手にとって選んで買物できるのが楽しい
・町中の量販店と同じ新鮮な商品が、同じ値段で売っている
・普段は置いてない商品でも、注文しておけば次回には乗せてきてくれる
・決まった日時に来てくれるので生活の一部になっていて、みんなとおしゃべりしながら 待つのが楽しみ
ハッピーライナーを追っていくと、驚愕の連続である。キャプテンは慣れているとはいえ、どんどん狭い路地に分け入って、わずかなスペースに駐車して営業を始める。宅配はしないが、それに近い“隣配”である。
筆者は自動車業界を長く追ってきた経験もあり、クルマの運転には自負があったが、今度ばかりは慣れない狭小路のハンドリングに悪戦苦闘、ハッピーライナーに付いて行けず、ついには取材車の右後輪を用水路に脱輪させてしまった。レッカー車出動を覚悟したが、ハッピーライナーに来ていた主婦のお客さまが右往左往するこちらの様子を気遣い、男衆に声をかけていただいた。駆け付けてくれたみなさんが、よいしょとばかり、まさに軽々と持ち上げてくれて脱輪を回復。恐縮する当方に「いやあ、ここでは前もあったから」と慰めてくれた、いの町毛田のみなさん、ありがとうございました。みなさんの優しさを忘れることはありません。
このように軽自動車サイズなら安心という場所にマイクロバスサイズのハッピーライナーが何事もなく入っていく。キャプテンのドライビングおよび自動車文化への貢献としてJAFは表彰すべきではなかろうか。
冷蔵ケースを設置、バッテリーも強化
冷蔵ケースには生鮮食品などが充実ハッピーライナーのサイズはトラックでいえば2トン車クラス、当初は三菱製だったが現在はサポートの早さから日産シビリアンを元車として移動販売用に改装、全6台で運行している。
改装のポイントは、やはり車内の売り場化、商品陳列台の設置にある。生鮮品を扱うことから、冷蔵ショーケースを完備する。このため、陳列棚が並ぶ場所に位置するサイドウインドウ、リアウインドウは撤去されており、バックモニターテレビをダッシュボードに設置、安全性を確保している。ちなみに運転席の視界は十分で、キャプテンによると四隅が掴みやすく、大きなボディサイズを感じないようで、取り回しやすいそうだ。慣れもあるだろうが、そうでなければあんな狭い道をすいすい走らせられないだろう。
コース途中に設けられた停車・販売場所に近づくと、ルーフに取り付けられたスピーカーから大音量でハッピーライナーのテーマ曲、いわゆるサウンドテーマが流され、女声で“ハッピーライナーがやってきました・・”とアナウンスする。静かな山中の集落では、誰も聞き逃すことはあり得ないような反響音が返ってくる。
冷蔵機能を維持するため、バッテリーは大型化され発電能力を高めている。移動時以外はアイドリングを停止するため、電気消費量は車のジェネレーターの能力を超えてしまうことから、夕方事務所に戻って翌朝出発するまでの一夜、近隣への騒音に配慮して、外部電源からの充電を欠かしていない。
300種類を超える陳列が可能
助手席の後ろに設置されたレジ助手席の後部、ちょうど車内=店内への出入口にレジ機器を設置、お客さまは車内空間に合わせた小型の買い物かごに商品を入れて、帰りに精算するオペレーションである。レジはカシオの『ネットレジ』を採用。携帯電話の届かない地域での営業が少なくないため、データはバッチ処理で事務所に戻ってから無線LANに接続、ホストに吸い上げている。馴染み度が高いお客さまが多いとはいえ、現金精算での即時払いを徹底している。ポイントサービスについては、希望する声も少なくないが、現状では未対応である。
菓子パンなど多くの種類を陳列販売する商品は基本的に300種類に及ぶ。“移動"に言い訳することなく、通常店舗で当日販売しているものと同じ、魚や肉などの生鮮食品が販売されており、これが通販やご用聞きのような競合に対する差別点、強みになっている。ショーケースを見ると、生活に必要な品物はたいてい揃っていることがわかる。また、お総菜が充実しているのも印象的であった。お客さまには甘いものが好きな高齢者が多いためか、菓子類(菓子パンを含む)も充実していた。農林業のお客さまが多いため、特に入手には困らないだろうと想定していた野菜の種、ペットフードなども意外にご用命があるという。
25年に及ぶハッピーライナーの歴史のなかで、現在の車両はすでに4代目である。重い車重に加えてコースのほとんどがアップダウンの続く山道で、低いギアを常用しなければならず、ミッション、エンジンの負担が大きく劣化が早いため、6〜7年で廃車になる。主要機関が不調になると、修理コストがかさんでしまい、代替の方が安上がりなのだ。改装費を含めて、こうした車両費も移動販売の大きなコストになっている。