現地・現場レポート

ハッピーライナー(株式会社サンプラザ 高知県高知市)


3.事業の経緯


競合に刺激され参入するも事業環境は停滞


DSC_0240.JPGハッピーライナーが走り始めた1985年当時、高知市周辺では個店の宅配やご用聞きなど移動販売が広く普及していたという。スーパーマーケット業界においても競合他社が参入したことで、同社も続くことになったのが事業化のきっかけである。社会貢献ではなく、完全にビジネスとしての取り組みであった。
当時、他社がハッピーライナーのような、冷蔵ショーケースを用意した本格的な環境で実施していたのかはわからない。ただ、同社は後発として、他社がカバーしていないエリアを選択して、現在と同様の装備水準で2台のハッピーライナーを走らせることにしたという。

それから10年が経過、バブル崩壊に続く低成長時代がやってくる。1985年には840万人だった高知県の人口は、その後10年で23万人減少、1995年には817万人に落ち込み、消費市場の縮小から、移動販売のビジネス環境も悪化する。しかし同社は、撤退した競合他社の販売エリアを引き継ぐなどして規模を拡大した。

高知県で小売ビジネスを展開するには、厳しい地域特性を覚悟しなければならない。
まず、森林面積が県土の約83%を占めており、人口密度は全国平均の約3分の1、過疎市町村の割合は約1.9倍となっている。高齢者の人口割合、高齢夫婦のみの世帯割合、高齢単身世帯の割合は、どれも上位を占める。一方、県民所得は全国平均の約7割、第46位の位置に過ぎない。日本経済低成長→地域経済の停滞の影響は、県民1人あたりの県内総生産を減少させて、2000年を迎えた頃から消費市場が縮小。高知県によれば、県内小売業の販売額(売上高)は2000年の約8,700億円をピークに減少に転じて、2030年には同年の8割程度となる約7,000億円になると推計する。
ハッピーライナーがカバーするエリアの大半は、過疎化と高齢化の進む中山間地域である。市部への人口集中が進む一方で、こうした山間僻地を含む郡部の人口は減少が続いており、その規模は高知県人口の3割に満たず、今後も厳しい状況にある。


【グラフ】高知県の人口と高齢化率・生産年齢人口率の将来推計
(出典:高知県教育委員会 www.kochinet.ed.jp/sinkoukeikaku/4-1syakaikeizai.pdf)

高知グラフ.jpg


社会貢献で撤退の危機を乗り越える


DSC_0049.JPG積み込みが完了、出発を待つハッピーライナー号このような消費市場の縮小で、お客さま数、売上高とも年々減少、ハッピーライナーを8台から6台規模に縮小するなどの対策も特効薬とはならず、21世紀を迎えた頃、ついに同社の役員会で事業撤退が検討されるようになってしまった。
そんな状況で、小学生の社会科の教科書に、高知県の山のくらしを紹介する単元があり、そこに掲載された写真になんとハッピーライナーが写っていたことがわかる。教科書でふるさとを代表して紹介される限り、やめることはできない。これをきっかけに、地域貢献の重要性を再認識したという。

企業の社会貢献と言えばCSR(Corporate Social Responsibility)、利益追求のみならず社会へ与える影響に責任をもち、消費者、投資家そして地域社会の総体からの要求に対して適切な意思決定を図ることが求められている。しかし、企業が持続的に発展しなければ、したくてもできないのが現実だ。何よりも先が見えない消費環境では、生き残りが最大の経営課題なのである。
20年近い営業によって、ハッピーライナーのコースは13市町村に及び、既にその存在が死活問題に直結する集落が多数となっていた。同社としても小売サービス業として、“儲からないからもうやめます”と簡単に中止できる環境ではなかったのであろう。
結局、地元、お客さまの要望に応える形で、赤字覚悟での継続を決断したのである。

支援に乗り出した高知県


ハッピーライナーの存続を決めた同社では、地域社会の衰退、住民のニーズを踏まえて、労働組合を通じて行政の支援を求めた。当初は営業エリアの13市町村に働きかけを行ったのだが、助成制度の適用要件であるすべての自治体の理解が得られず頓挫。1年間をかけて県議会での支持を獲得した後、高知県への要請を行ったのである。

平成の大合併によって、県内市町村がすべて中山間地域に含まれることになった高知県にとって、その活性化は重要な行政課題であったことは間違いないだろう。具体支援に先立ち、2003年にスタートさせた地域支援企画員制度を利用して、ハッピーライナーの公共性・唯一性・事業性等について、客観的な評価を実施した。高知県によれば、「地域支援企画員制度とは、地域支援企画員は、土木や農業といった部門ごとに配置された県の出先機関に属さない職員」が、「市町村と連携しながら、実際に地域に入って住民の皆様と同じ目線で考え、住民の皆様とともに活動することを基本に、地域の自立につながるよう(1)主体的な住民の皆様の活動に対するアドバイス、(2)先進的な事例の情報提供、(3)人と人をつなぐ、(4)行政とのパイプ役などを果たす」制度で、平成21年現在54名の企画員が活動中だ。
企画員はハッピーライナーに何度も同乗、営業エリアにおいては歩いて行ける範囲に量販店どころか商店もなく、高齢者を中心に買い物はハッピーライナーに依存している状況を確認、支援の必要性を結論づけた。ちなみに同乗体験は現在でも年に2〜3回は実施されている。

ハッピーライナーの代替に目途


DSC_0040.JPG「地域見守り活動」ステッカー初の支援は、2007年に始まった「地域の見守り活動に関する協定」である。県、高知県民生委員児童委員協議会連合会と協定を締結、民生委員・児童委員と同じように地域の見守り活動に協力する事業である。現在、同社を含む6社が協定を結んでいる。金銭面での補助はないが、社会貢献の訴求にはつながった。

2009年、ガソリン価格の高騰によってランニングコストが急増、数百万円規模の赤字を計上する。さらに劣化に対して修理を加えて維持してきた「ハッピーライナー」も、いよいよ限界に達して、1台約1,300万円をかけての全6台の車両入れ替えに迫られた。車がなければ移動販売は成立しない。懸命に維持してきた事業だが、ついにその継続に赤信号が灯ってしまう。

DSC_0041.JPGハッピーライナーに貼られている「地域見守り活動」ステッカーここでようやく県が実質的な支援を実施する。同年9月に「平成21年度高知県中山間地域安全安心サポート体制支援事業」として補助金交付要綱を制定した。県は、「中山間地域等で生活する方々が安心して暮らし続けることができる生活環境を築くため、生活物資の販売と併せて、地域の見守り活動を実施するために必要な移動販売等の車両購入等を支援する」と説明している。補助対象期間は単年度だが、車両購入費の2/3が補助される。こうして最大の危機を乗り越えられるめどがついた。ただしハッピーライナーとしてデビューさせるための車両費と同額が必要になる改装費は含まれない。それでも、収益性の期待できない移動販売事業としては、大きな援助であることに違いはないのである。

なお、補助制度を利用により、補助要件である事業開始後5年間の継続が求められた。これにより、ハッピーライナーは2014年までは営業が続けられることになった。


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