現地・現場レポート

ハッピーライナー(株式会社サンプラザ 高知県高知市)


4.体制 〜キャプテンのポテンシャル〜


キャプテンは全員、他業界からの転職



DSC_0014.JPGお話を伺った、株式会社サンプラザ 総務部マネージャー 細川和夫さんハッピーライナーは4台が土佐市の担当事務所(以前は東町店であった場所)、2台が高岡郡佐川町の佐川ショッピング店に配置される。車両ごとに使用するキャプテンが決められている。300種類を超えるという各車の品揃えは基本的に共通しているが、お客さまからの要望やコースの特性などから、独自の用意も加えて、CS(顧客満足度)向上に配慮している。このあたりの判断は、商品の仕入れ、賞味期限の把握といった商品管理、積み込み・陳列、接客、レジ、発注まで、まさに小売店の営業に等しい業務のほとんどを1人でこなすキャプテンの裁量に任せられている。よって普通自動車運転免許の保有と、食品衛生管理者の資格取得が求められている。

DSC_0005.JPGキャプテンの津野課長営業日は、事務所を出発すると夕刻に戻るまで、まさに分刻みのスケジュールで集落を回る。決して楽な仕事ではないが、だからといって厚遇されているわけでもない。人付き合い、対面での商売が好きで、地元愛がなければできない仕事の典型のように感じられた。現在の6人のキャプテンは全員高知県出身だが、前職は他業界に籍を置いていた。

キャプテンが担当するコースは固定されており、利用するほとんどのお客さまの顔と氏名を把握している。本業のスーパーマーケットは非対面販売だが、移動販売になると、顧客限定的な対面販売に一転する。御用聞きのような対応も求められる。素質・才能も必要だが、肝心なのは接客が好きかどうか、そして経験を積むことだという。会社として、キャプテン育成プログラムのような教育は実施していない。開店前のロープレのような仕組みもないが、接客の面で見過ごせないようなトラブルが過去に起きたことはないそうだ。すべてを任されているキャプテンはそれだけ責任重大だが、やりがいのある立場、仕事である。現在のメンバーは40歳代〜60歳代、全員男性で、6年以上の経験があり、最長で20年を超えるという。

会社としては、仕事を全面的に任せたことで、ノウハウや情報がキャプテン個人に集積。これがデータベースとして共有されてない課題を抱えている。ベテランが定年退職した後など、次のキャプテンに蓄積された情報やノウハウの継続を諦めざるを得ない。

なお、顧客から本部に苦情が寄せられた場合、内容を明確にしてキャプテン本人に必ず伝えられる。基本的に応対時の何気ない行き違い、悪気はなかったのだが言葉足らず…といった内容がほとんどで、頼んだ商品がなかった、賞味期限が迫っていた等、商品管理に関連する内容に注意している。一般のスーパーと同様に生鮮食品を売り物に、毎朝限られた時間内に商品を入れ替えるため、賞味期限の長い菓子類などは陳列が長くなり、管理ミスが起きると“長く保管できるのに、賞味期限はあと○○日しか残っていない”事態が発生するわけだ。


決められたコースを巡回


DSC_0060.JPG朝、ハッピーライナーに積み込む魚介類を袋詰めするキャプテンキャプテンは毎朝7時頃には全員が出勤、それぞれのペースで、前日帰庫後に本部に発注した商品の確認や陳列補充など、出発の準備を急ぐ。生鮮品は当日の朝に入庫、鮮度を保ったまま陳列される。なお、ハッピーライナーの給油もまたキャプテンの仕事である。9時30分を過ぎると、全車が出発、帰庫する夕方まで無人となる事務所は閉じられる。

巡回するコースは22パターンあって、須崎市、津野町、仁淀川町、いの町、おの町、大豊町などの13市町村をカバーする。訪問場所は集落を基本に、福祉施設や病院、学校の寮なども加えて営業を行う。いずれもハッピーライナーの駐車が可能なスペースが必要だが、5ナンバークラスでは行き違いが不可能な車道であっても、集落に近い待避スペースや余裕のある公共施設のファサード部分などを見つけて営業する。
DSC_0071.JPG商品の積み込みに余念がない長年の営業によって培われた地元との信頼関係から好意的に提供された場所も少なくない。顧客の大多数は高齢者であり、買い物のために距離を歩いてもらうより、移動販売の機動性を生かして売り場(ハッピーライナー)の方から顧客の近隣にうかがうのである。ゆえに住宅の集積が小さい集落内であっても、まめに停車して営業している。

コースの設定は、伝統芸に近いノウハウがあるようで、1985年のサービス開始から歴代の担当者、キャプテン自らが休日に新たな場所を走ってみるなどして、現在の形が形成されたそうだ。コースのひとつひとつに歴代キャプテンの想いが脈々と生きているのである。
巡回は毎週月曜日・木曜日、火曜日・金曜日、水曜日・土曜日の週2回が基本で、週1回のみ訪問のコースもある。顧客から見ると、週2回、買い物を楽しめることになる。

DSC_0070.JPG出発前の棚には商品がびっしり取材した5月のある木曜日、ハッピーライナー7号車(奥田キャプテン担当)の担当したコースを紹介しよう。事務所を9時30分頃に出発、給油の後、土佐市内を仁淀川に沿って北上、いの町に入って田園の中にある最初の営業場所の同町大内に9:45分頃到着、2人のお客さまを迎えてから、次の波川地区、次に加田地区と、いの町を網羅した26の場所に立ち寄って営業した後、最後のおの町吾北川窪を経て18時30分頃に戻ってくるスケジュールであった。


【ハッピーライナー7号車のコース表】
コース表.jpg到着・出発時間が細かく決められ、多くの営業場所を効率よく回る

可能な限り休業しない努力


DSC_0116.JPGハッピーライナーを待つ集落に向かうハッピーライナーは、日曜日以外、原則無休である。車を走らせての商売だから、車が走れなければアウトである。キャプテンはコースのどこが危険箇所かをほぼ把握しており、平常でも運転には慎重である。悪天候や土砂崩れで通行止めになるような突発事態が発生しても、簡単には諦めない。エリアを知り尽くしており、別の道を使うなどして遅れても営業できるように全力を尽くす。それでも断念せざるを得ないこともある。2009年は、台風の影響で2回ほど休業を余儀なくされた。その場合、顧客には全員、電話連絡を入れている(人間関係の濃い戸数の小さい集落では一人の顧客に連絡が入れば全員に伝わる)。顧客の方でも、大雨や大雪の日は、休みになるだろうと納得してくれるそうで、特に混乱はないそうだ。

早朝、地区対抗野球大会に選手として参加してから出社する“鉄人”をはじめ、キャプテンのみなさんはたいへん元気そうである。「人一倍、健康管理に気をつけている」というが、人の子である。体調を崩して休まざるを得ない事態もあるだろう。滅多にないというキャプテン休業時には、本部のスタッフが代行するなどの対応で、ハッピーライナーの休業を回避する。

なお、キャプテンは、顧客の中でも親密度の高い馴染客や、希望されたお客さまには、連絡先として自分の携帯電話番号を伝えている。“今日は不在なので行けない”、“何時頃になりそうなのか”といった問い合わせを直接受けられる信頼関係を築いている。

並べて売るだけでなく、買い物代行にも一役


DSC_0227.JPGレジ精算をするキャプテンキャプテンは営業中、基本的に車内(売り場)にいて、接客とレジをこなす。お客さまには“今日は天気がいいね”“元気ですか”といった挨拶程度の話題でも必ず一声を掛ける。そこから始まる会話に喜んでいることは、確実に伝わってくる。だからこそ、話は欠かせない。いちばんの話題は健康だという。
お客さまが全員精算を終わって降車したのを確認して、次の営業場所にハッピーライナーを走らせる。営業時間は取材した「いの町」のコースで、お客さまの人数にもよるが、5〜10分くらいだろうか。到着時間はいつもそれほど変わらないため、何人かのお客さまが世間話をしながらハッピーライナーを待っている。大音量のテーマソングを聞いてからやってくる人もいるため、お客さまの姿が見えなくても、5分間は待機する。

DSC_0159.JPG福祉関連施設では、主な商品を箱に入れてハッピーライナーから運び出して、車外で選んでもらえるようにする。「例外的に重量物などはお客さまの家まで運ぶこともしています。僕が担当するコースの最終地点のお客さまで98歳のお婆さんがいます。自宅はかなり高い場所にあるので、まだ元気だとはいえお米のような重い商品をお買いになった時は、帰宅に同行して運ぶようにしています」(キャプテンの津野担当課長)。

移動販売車として高機能に改装されたハッピーライナーだが、車台までは変えられない。従って、乗降はマイクロバスそのものである。高齢者が多数を占める顧客層に対して、唯一残念な環境であるが、こればかりは事業者はどうしようもない。乗降が難しいお客さまは、買い物メモを持参、乗車せず「これをお願い」と伝えると、キャプテンが品物を揃えていく「買い物代行」的な対応でフォローしている。福祉関連施設では施設のスタッフがサポートしながら買い物、精算を完了する。


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