現地・現場レポート
中村まちバス(高知県四万十市)
(3)工夫
現在、デマンド交通は福島県や長野県など主に地方での導入が進んでいるが、平成12年当時、人口3万人規模の都市で導入したことは、進取の取り組みであったといえよう。先行事例からの情報に頼ることが不可能で、自らPDCAに取り組み、現在まで運用を維持してきたのである。
実施主体となる四万十市はもちろん、利用者の市民にとってもデマンドシステムは初めての経験である。そこで、同市では広報やアンケートを実施して周知理解を促進した。利用促進のため、バス停を新設。それまでの2倍規模(57カ所)として、ドア・ツゥ・ドアの環境に近づけた。病院、ショッピングセンター、ホテルなどの協力を得て、それら施設内のバスを待機できるようバス停の機能を果たしてもらうとともに、到着時には館内放送を行うなどのサポートを得た。
利用時に、行き先がわかりやすいように、情報端末と連動して車両前面のLED方向幕に確実に表示。また、詳細な到着時間を案内できるように、デマンドシステムとバスの業務用無線を併用して運行情報を確実にコントロールできるようにした。
一方で運転手の疲労軽減に配慮して、次のバス停など、運転と同時に認識を必要とする情報参照の範囲や量を適正化している。
最も気を遣った(ている)と想像できるのは、中村まちバスの導入で直接・間接に利害対立が生じる団体(例えば競合する交通事業者、バス停の有無が直撃する集客施設等)との調整、協力関係の構築であろう。現在、協力関係機関として、四万十市、四万十市商工会議所、四万十市ハイヤー・タクシー組合、四万十市観光協会、四万十市旅館組合等の名前が上がっている。
なお、第3セクターの土佐くろしお鉄道と高知西南交通バスの利用促進を目的に、「鉄道・バスサポーターズクラブ」が平成21年10月に発足した。年会費は1000円で、入会すると会員限定の鉄道・バス回数乗車券1000円相当のプレゼントや、サポーターズポイントカードの発行(1000円購入で1ポイント付与)、ポイントが貯まると共通回数券(1100円相当)に交換できる等の特典が提供される(http://www.kochi-seinan.co.jp/sapoterschirasi.pdf)。
(4)評価
四万十市は、利用者の声を把握するために、これまで何度か利用者調査を行ったそうだが、平成12年の実験当初に行ったアンケート調査結果のみ公表されている。それによると、95%と圧倒的多数が「便利になった」とデマンドシステムを高く評価している。特に、①電話で乗車直前に予約ができる、②待ち時間が短縮され、荒天時の肉体的な疲労が軽減された③バス停が増えてドア・トゥ・ドアになったことが支持を集めている。
さらに、「中村まちバス」運行以前は徒歩やマイカーに依存していた利用者が26%を占め、公共交通シフトが刺激されたことが確認できた。
また、市街地のみならず、市内中山間地域に居住する市民からも、運賃が500円程度ならぜひ利用したいという声がいくつか寄せられたという。