現地・現場レポート
熊本市健軍商店街(熊本県熊本市)
熊本市健軍商店街「らくらくお買い物システム」
買い物をタクシーで宅配、「重い」「かさばる」を解消
熊本県熊本市の健軍(けんぐん)商店街では、地元のタクシー会社と提携して、購入した商品を当日中に配達する「らくらくお買い物システム」のサービスが順調に利用者を増やしている。先行して取り組んでいた、高齢者や障害者をはじめ、誰もが利用しやすい街づくりを目指す「いきいきショッピング推進事業」の目玉とも言える活動である。
「スタジオ」は商店街の中に設置され、だれでも使いやすい サービスの仕組みはたいへんシンプルで、携帯電話のようなデバイス、ポイントカードのようなツール類など一切使用しない。商店街で買い物をして、荷物が重たくなったり、かさばったりすると、高齢者や障害者、あるいは徒歩での来街者にとって、帰宅が難しくなる。そんな場合に、商店街が自宅への宅配を代行しようというサービスである。商店街の中に設けられた「スタジオ」で申し込めばよい。代金は300円だが、商店街が100円を補助するため、利用者の実質負担は200円となる。配達するのは運送業者ではなく、乗り合いタクシーである。午前中の買い物は12時に、午後の買い物は4時から同スタジオから配達に出発する。もちろん同時にタクシーとして、同乗しても問題ない(ただし運賃は自己負担である)。
このサービスは2002年(平成14年)1月にスタートして10年、毎年確実に利用者を増やしてきたという。地道な取り組みだが、近年の「買い物難民」への注目で、周知は全国区になったそうだ。
戦後にベッドタウンとして成長
健軍(けんぐん)の由来だが、かつての「竹宮」がそのまま健軍と書いて「たけみや」と呼ばれるようになり、明治以降になると旧陸軍の飛行場が建設され、軍関連施設が増えたことから、表記の通り「けんぐん」と称されるようになったという。現在も健軍神社は実在しており、陸上自衛隊の健軍駐屯地が置かれている。
1945年、熊本市電が同地に「三菱工場前」を開業(現在の「健軍町」終点電停である)、熊本市中心部よりも水害の影響を受けにくい住宅地として、人口が増加。商店街も高度成長に合わせるように発展・拡大を続けてきたが、昭和50年代からは大型商業施設や郊外の大型商業施設との競争によって、徐々に集客力を失っていく。
「スタジオ」でスタッフの女性が受付 そして現在、住民の高齢化に直面している。商店街によると、熊本市の高齢化率は平均20%程度だが、商店街周辺地域(商圏)になると26%に上昇するという。戦後すぐに健軍に移り住み、コミュニティと商店街の発展を支えた顧客層は、既に70〜80歳代の高齢者となっている。しかし今でも商店街の中心顧客であることに変わりはなく、毎日のように買い物にやって来る。もちろん馴染みや贔屓もあって商店街を利用するのだが、現実には車という足が自由にならず、また子供世代と一緒の外出機会が激減していること、さらには高齢独居の事情等から、他に選択肢がなく、やむを得ず商店街を利用している人も少なくない。
高齢化する買い物客をサポートする商店街
商店街の買い物に利用できるカートが常備されている それぞれに事情を抱える高齢者の買い物需要に対応できるのは近隣商店街であって、これから商店街が果たすべき中心的な役割に他ならない。また、ITの普及によって、ネットスーパーや宅配利用も活性化する今、商店街が向き合うのはそのような利便サービスを受けられない“買い物弱者”に他ならない。
そこで健軍商店街では、まずは高齢層の顧客が買い物をしやすい環境づくり、サービス開発に知恵を絞ってきた。例えば、商店街は地域コミュニティ機能を充実できる場と位置づけ、『街なか図書館 よって館ね』を開設。健康や福祉、子育てに関わる多くの団体と連携してイベントを開催する等である。
今回の「らくらくお買い物システム」は、商店街の買い物客ならば誰でも利用できるサービスである。まさにインフラである。原点はマイカーや自転車などの足がなく、“かさばったり重くなると持って帰れないので買い物を我慢する”顧客の不便解消になる。運搬の容易性を宅配で、しかも200円という安価で提供する。合わせて買い物をした本人の送迎があってもよい。そこでタクシー会社との連携を図ったというわけである。
メインターゲットは、健軍商店街隣接の4つの校区に居住の約30,000人で、宅配の範囲も商店街から約2kmに設定されている。
宅配よりも好調なタクシーの乗車利用
宅配利用で預かった品物宅配利用は、トライアルの2カ月が100件、ピーク時は年間700〜800件、ここ数年は300件前後(289件・2009年)で落ち着いている。利用のきっかけはリピート利用者からのクチコミや紹介等がほとんどだという。一方、タクシーの乗車利用は年間15,000〜16,000件で、こちらは年々増加している。荷物は宅配にして、自分も疲れているからと利用する人が増えているそうだ。タクシーを運行する肥後タクシーの運転手の応対が好評であることも見逃せないという。
なおサービスの利用促進策として、商店街としては個店での案内や推奨を期待するが、利用が増えれば当然、補助金額も増えていく。結果的に個店の負担も増えていくため、いまのところ各店の自主性を尊重する対応である。将来は、資金の提供よりも駐車場利用の無料化といったサービスの充実によって、このあたりの課題解消に務めたい考えだ。
(2010年冬取材・直後の東日本大震災発生の影響から掲載が遅れましたことをお詫びします)