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現地・現場レポート

都心と郊外の団地に見る、高齢化の実情


買い物弱者の話題は、少子高齢化はもちろん、限界集落や独居化、孤独死などの問題探求と併せて紹介されることが多い。
 人間が住まなくなって、コミュニティが小さくなると、必然的にそこでの消費も減っていく。従って消費場所となる域内店舗は、収益を得ることができず、閉鎖に追い込まれる。住みにくくなって、その場所を離れていく人が現れる。こうして人が減り続け、店舗もなくなり、結果は街や集落の生活機能が喪失する、負の連鎖が拡散する。大都市の生活に慣れた人には、予想もできない事態だ。
 すでに「買い物ができる」ことが、コミュニティ維持の防波堤になっているような地域が、少なからず存在している。経済性を超えた福祉政策として地域の維持が行われている。厳然たる事実として受け止めるべきなのである。

IMG_0268.JPG 特に地方や都市郊外では、構造的にクルマがなければ生活が成立しない。マイカー利用を公共交通機関にシフトするというのは、簡単ではない。クルマに慣れた人が、1時間に数本程度の運行ダイヤに併せていくのには、家人の協力をはじめ、当事者もかなりの努力を要求される。最寄りの駅やバス停へのアクセスも問題だ。クルマ生活に慣れると、そのような場所からの徒歩機能を考えずに家を建ててしまう。

 環境に恵まれているはずの都市機能集積地域であっても、買い物ができそうでできない状況に苦しんでいる人もいる。近隣に買い物の場所がたくさんあっても、そこまで行けないという人たちだ。なぜアクセスが難しくなるかといえば、住居の周りが坂道だったり、階段や段差が多く、歩行に危険を感じてしまうような立地特性にある。高齢化によって歩行が困難になると、たちまち外出困難の事態が生じてしまう。今は大丈夫でも、この先、健康を害してしまえばたちまち外出困難を余儀されるという不安やリスクを抱えて暮らすもいる。
 それから、経済事情もある。家計に余裕があれば宅配サービスや送迎タクシーなど、不便性を解消するオプションを選ぶことができる。しかし余裕がなければ、選びようがない。我慢するか、必死に挑戦するしかない。

 このような問題は、生活利便性が高いはずの団地で顕著になっている。今回、現状を把握するために、多数のメディアで高齢化に伴うコミュニティ衰退を語られてきた、戸塚団地(東京都新宿区)と村山団地(東京都武蔵村山市)を訪れて、買い物弱者の視点から現状を体感してみることにした。

  • 1.戸山団地

 都心や東京、買い物弱者のキーワードで検索してみると、多数ヒットするのが「戸山団地」で、中央の新聞やテレビでも何度も報道されたことがわかる。
 今回、現地を訪れて戸惑ったのは、「戸山団地」とは住民や役所では共通語なのだろうけど、現地では一切そのようなサインは立てられていないことである。団地の物件と思われる建物についても、「戸山ハイツ」といった名称がネーミングされており、事業者も東京都住宅局、東京住宅都市整備公社が混在している。

 また、旧陸軍の訓練地だったという広大な土地も、山手線を挟んで早稲田側(都心側)と大久保側(中野側)では、住宅地の構造や周辺環境が全く異なっている。どちらがいわゆる都心限界集落問題を抱えているのか、見ただけではわかりようもない。毎日新聞、東京新聞、TBSなど在東京マスコミが過去に限界集落として報道していたのは、ほとんどが大久保側(住所で言えば新宿区百人町)であった。

 「戸山団地」の中層・高層住宅の建築物はそのものは、改修や建て替えも進んでおり、管理も行き届いている模様で、特に大久保側の方は見た目、それほど老朽化を感じさせない。隣接する民間のマンションと比べてもほとんど違和感なく、都心部らしい無味乾燥な景観を形成していた。平日の昼間、団地内は極めて静かで、人通りや放課後の時間を公園で遊ぶ子供達といった光景は一切目にすることがなかった。たまに見かける、買い物袋やカートを押す住民らしい人々は、、ほとんどがシルバー層であった。

  • (1)戸山公園エリア 

明治通りからすぐの、旧戸山ハイツ跡地に整備された地区は、都心とは思えない豊富な緑と静寂感に囲まれている。このあたりを「箱根山地区」という。中心は戸山公園である。ランドマークが山手線内で最も標高の高い「箱根山」(標高44.6m)である。ちゃんと山頂の表示もあり、江戸時代は尾張藩が東海道五十三次に似せてつくったという池泉回遊式の戸山荘庭園があったことを紹介する案内板も立てられていた。戸山公園については、東京都公園協会のサイトに詳しい。
 同サイトに掲載している「園内マップ」をまずは参照されてから、各コンテンツを確認いただきたい。箱根山を中心に公園化されて、緑地の周囲に余裕を持って集合住宅が建てられた、といった風情がおわかりいただけると思う。
 地理的には、明治通り側の標高が高く、早稲田に向かって下っていくような形状で、途中に箱根山が位置している。
 沿岸部の全く緑のない高層住宅街に暮らしている筆者の感覚だと、戸山公園の周囲に位置する住宅群は、自然に恵まれしかもアクセス利便な都心立地で、住むにはすばらしい環境だと納得してしまう。うらやましく感じられるビジターがほとんどだろう。

toyama01.JPG箱根山からの風景。散策にはベストな環境だ。toyama03.JPG明治通りに近いエリアには中高層も建てられている。

 しかし、冷静に各住宅の配置や団地内をじっくり見ながら、現地を歩くことで、理想と現実のギャップ、すなわち住みにくさもまた伝わってくる。

 まず、大半の棟が斜面に建てられているため、住宅地区内はもちろんだが、立地や規模からして、周辺で最も買い物利便性が高いと思われる生協スーパーまでのアクセスは、階段の上り下りが必要になる。自分の部屋から棟の外へ出て、そこから緑地を歩いて階段を上下し、帰りは買い物で重くなった袋を、途中休みながらでも持ち帰る。これは健康体の人には魅力的だろうが、歩行や体力に課題を持つ人には厳しい。間違いなく、車椅子利用では介助が必須になるだろう。

toyama02.JPG早稲田に近づくほど高低差が拡大するため、階段も長くなる。一部ではスロープ状に歩行道を設けているtoyama04.JPG既存建物に併設するように取り付けられたエレベーター。


 建築時期が古そうな5階以下の低層棟では、最近になってエレベーターが整備されたようで、多少なりとも環境改善は進んでいるのだろうが、建物の位置関係の訂正は、土木から作り直す必要があり、不可能である。

 1階に店舗が入居している棟以外、駐車場は用意されていない。都心部だからクルマは不要、公共住宅は低廉な価格で住宅困窮層に住まいを提供する目的からしても、マイカーを持つというのは禁句なのであろう。住宅供給優先の時代に、段差の大きな土地構造で、駐車場用地まではコストや工期から確保されなかったのかもしれない。
 さらに、集合住宅でありがちな、大量の自転車も見当たらない。下町の団地では当たり前のように見かけられる、前後にチャイルドシートを設けた母子3人乗りの姿も確認できなかった。どこの棟に駐輪場も、意外に余裕がある。これもまた、坂道が多い環境ゆえの現象であろう。電動アシストの付いたような高額なタイプは、きっと自室で管理しているのだろうが、それにしても「団地」的ではない。

 坂道が高齢者の外出を阻んでいくのは、筆者の母親を見ても明らかだし、自分にしても30歳代の頃に感じた実家を囲む坂の斜度感と50代の今ではだいぶ違っていて、感覚的に数度はきつくなったように思う。だから、外に出るのが面倒だなと感じることが増えて、勢いぐた〜っと生活になりやすい。だから、戸山ハイツでは、どの棟に住めるのかで、行動範囲が機会が大きく変わっていく可能性が高い。環境を良しとするのか、機能を優先するのか(できるのか)で、ここの暮らしは優しくも、厳しくもなるのだろう。


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