現地・現場レポート

都心と郊外の団地に見る、高齢化の実情

  • 2.村山団地

戦後、高度成長と共に東京郊外に建設された大規模な都営団地で、昭和40年代のピーク時には、団地だけで10,000人が生活する街になっていた。当然、団地の周辺には商店街が生まれ、またモータリゼーションの発展と共にロードサイド店が進出した。
 現在の団地は、東京都によると、424棟・総戸数5,260戸、敷地面積約48ha。老朽化に伴い1997年から中期計画として44棟(2,288戸)の建て替えが進められており、直近では2013年1月に、2015〜30年度の16年間を予定する後期計画の環境影響評価調査計画書(http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/assessment/reading_guide/303.html)が公開された。既存住宅60棟を除却、新たに住宅19棟(約2,400戸)を約12万3,000㎡で整備していくという。十数年後には大きく様相を変えてしまいそうな村山団地も、残念ながら郊外立地の大型団地共通の問題に直面している。
 言うまでもなく、郊外大規模団地の問題として、建物の老朽化、住民の高齢化、コミュニティとしての活力停滞がある。

murayama03.JPG団地内、取り壊し中の現場に掲示されていた「都営村山団地工期事業計画 建替設計図」。 後期計画の終了時は、すべての住宅が更新されることになる。 建物は建て替えれば解決するが、高齢化を止めることはできない。さらに少子化が加わると、せっかく二世代が同居できる住居環境が叶っても、同居相手(いわば親世代をサポートする子供世代と、次のにぎわいの主人公となる子供層)が見つからない。だから、言葉は悪いがコミュニティの新陳代謝を起こさなければ、まちは停滞する。公営団地の場合、事業主たる行政や公社に求められる役割が大きいのだが、どうも民営化以降、長期事業ながら短期のビジネスに向かいすぎているような印象を持ってしまうのは私だけだろうか。
 それはさておき、村山団地の買い物弱者対策については、「まいど〜宅配センター」と称する画期的な話題がある。これは当事者の武蔵村山市商工会・村山団地中央商店会のサイトにも掲載されているので、詳細はそちらを参照値が言いたい。一言で言うと、自転車を使っての団地商店街と自宅を結ぶ無料の送迎や配達サービスである。当該サービスのために制作された専用の三輪自転車を使っているところが珍しい。

murayama01.JPG「まいど〜宅配センター」運営のため「おかねづかステーション」を開設。買い物をした品物を自宅までお届けする宅配用自転車と、送迎用自転車が1台づつ配備されており、無料で利用できる。宅配、送迎の目的以外にも、高齢者宅の安否確認や、地域見回り等の役割も担う。(出典:武蔵村山市役所)murayama02.JPG 送迎用サイクルに乗車してもらい、目的の住宅棟にお送りする。読売新聞によれば、営業は平日午前10時〜12時、午後1時〜3時までの4時間で、雨天時は運休、多い日は27人の利用があったという。写真は今回の調査当日、偶然に見かけた利用の様子。

 このような事業が立ち上がったのは、「都営村山団地(約8,000人、約4,000世帯)の高齢化率は約45%(65歳以上)にも及び、一人暮らしの世帯も多い現状と若年層の域外流出等様々な要因で地域の活力が低迷しているため」(同サイトより)なのである。
 高齢化率45%、これは驚くべき数字だ。日本の平均23.3%の倍以上の水準で、国が試算する平成47年(2035)んの高齢化率において、最も高くなるであろう秋田県の41.0%を現段階で上回っている。わかりやすくいえば、二人に一人は65歳以上のシルバーで、時間の経過と共にさらに高齢化が進み、住民の新陳代謝が起こらないと、10年後、20年後は本当に“シルバーだけの街"が成立することになる。これをテーマに映画を撮ってみたいと筆者は本気で思っている(もちろん警鐘の意味で)。
 平日の昼間でかなり冷え込んだ気象条件も影響したのだろう、中央商店会はポイントカードを使ったセール中であったが、閑散とした印象であった。

murayama1.JPG1階に店舗が入居している村山団地中央商店街。残念ながら生鮮品でも、ここですべての商品が揃うわけではない。 団地の中では、あまりというか、ほとんど子供や親子の姿を見かけない。数カ所にある保育施設も静まり返っていた。買い物カートの中に購入した商品を置いて、ゆっくりと押しながら帰路についているご老人の姿を何人も見た。
 団地の東側、中央商店会最寄りバス停と道路を挟んだ対面の場所に、民間のスーパーマーケットがある。こちらは駐車設備もあって、団地の住民以外の利用が増えるためか、利用客の年齢層は極端に高くはないとの印象を持てた。
 村山団地の広大な敷地を散策してみると、建て替え事業の対象であろう、立ち入りができないよう周囲をフェンスで(無機質な金属製。厚めのトタン板のようで、あるいは警備用の盾を思い出す)の囲まれて取り壊しを待っている棟を、かなりの数で確認できる。それもブロック(街区)単位で指定されているようで、まさに団地内ゴーストタウンの様相を呈している。素人目には、窓やベランダ、壁面のペンキが劣化している様子もなく、取り壊しの必要があるの?と思ってしまう。しかし構造をじっくりと見ると、5階建ての低層住宅にはエレベーターがない、住宅の半分が後に付け足し(増設された)ような構造で、高齢者の暮らしを守りつつ、耐震も維持するのは限界だったのだろう。

 団地の北部には広大な花畑がある。ここは既に取り壊されたまま、開発を待っている街区の跡らしい。新築事業が始まるまで、空き地のままにしておくのは景観上・防犯上の問題があるようで、地元と市が共同でお花畑として維持しているという。

murayama3.JPG建替計画を示す閉鎖棟。murayama4.JPG夏は一面のひまわり畑になるここは、一部は賃貸駐車場として利用されている。

 この周辺には、村山団地以外にこれといった住宅集積も見当たらないものの、商店街が形成されていた。銭湯もある。ここのにぎわいは、村山団地の盛衰と軌を一にしてきたのであろう。既に商業集積としてのピークは過ぎている様子ではあるが、居酒屋、スナックなど夜の業態はまだがんばっているようだった。
murayama5.JPG 昼間よりも夜のにぎわいが期待できそうな雰囲気。 郊外立地ながら、現在の村山団地は駐車場がない(最近、一部で整備されたが僅かな規模)。
団地内を実際に歩いて確認したのだが、建設当時から駐車場を作る意向はさらならなかったようである。同市はもともと、旧日産自動車村山工場を代表する大規模生産拠点が立地していた。このため自市内就業を生活基盤とする世帯が多く、マイカーがなくても、徒歩や自転車をはじめ公共交通機関があれば足に困ることはなかったのかもしれない。
 今後の建て替え事業ではどうなるのか不明だが、この地域・立地で、クルマが持ちづらい住宅というのは、都営住宅としては妥当なのかもしれないが、コミュニティの新陳代謝を活性化するために、さらには入居促進のマーケティングからし、住宅としての魅力に欠けやしないだろうかと心配になる。
 現在、団地を一周する形で多数のバス運行されている。団地と最寄り駅(玉川上水駅や立川駅)を連絡しており、しかも低床バスが優先配置されている模様で、利用しやすい。

murayama6.JPG武蔵村山市が運営するコミュニティバス(MMシャトル)。市内を循環運転する。将来はともかく、高齢者やリタイヤ組が多数を占める今の団地に、生産人口層のボリュームは限られているだろうから、団地から都心部へ通勤・通学する需要に対応するよりも、団地内あるいは団地周辺のお出かけに個人(特に中高年層)が気軽に利用できるモビリティ導入の方が喜ばれるだろう。特にデイリー要素の強い買い物の足・方法への期待は大きい。団地中央商店会の宅配サービスには、こうした文脈を感じさせるのである。


 1980年代に、東京の郊外で公団の団地(もちろん賃貸)を探したことがある。当時、「公団への入庫申込み代行詐欺に気をつけよう」など、住宅都市整備公団は人気を集めていた。就職したばかりで、収入の少ないまま配偶者を得た自分にとって、住宅の広さや設備、会社への時間距離さえ我慢すれば、コストパフォーマンスは納得できるものだった。また、郊外団地には駐車場が用意されていないくても、近隣の民間物件を契約すれば、進出が本格化した郊外ロードサイド店を日常的に利用できる。
 こうして、最初は賃貸の団地でも、子供が誕生して住み替えが必要になると、それまでの貯蓄とローンを組み合わせて、「○○が丘」や「○○坂」とネーミングされるような、戸建中心の住宅団地の分譲物件に移っていく。こうしたライフステージの組み立て方が、郊外文化を拡大した。思い出されるのは80年代の大ヒットしたテレビドラマで「金曜日の妻たちへ(金妻)」の舞台は東京郊外の住宅団地であり、登場人物は自分より一回り上の30〜40代、中流の郊外生活がていねいに描かれていたと思う。

 一方、団地の利便性に慣れてしまえば、コミュニティの人間関係が定着して、積極的に団地を離れる理由が見つけられないまま居住を続けて、いつのまにか歳を重ねていたという人も少なくない。中高年になると、低成長と年金不安が続く今の日本では、賃料を抑制して生活費を守ろうとする志向が強くなる。契約賃料が低ければ動く理由は見当たらない。こうして団地生活の高齢化が進んでいく。
 「金曜日の妻たちへ」のロケーションが行われたのは、多摩ニュータウンや東京都町田市の住宅地であったという。放送から30年、ドラマの主役世代はリタイアを迎えて、老後を迎えている。そして、華やかな生活イメージを創出していた多摩ニュータウンも、建物の老朽化と居住者の高齢化、さらに敷地内の高低差による急な階段や坂道によるバリアの解消に直面し、郊外の衰退と都心回帰を示す格好なモデルのような扱いを受けるようになってしまった。

 建て替え事業や環境改善事業等を通じて、住宅集積地としての魅力をもう一度取り戻すことは可能だろう。ゼロから新しいモデルを具現するのはやりやすい。しかし「再生」は、既存のリソースの活かし方が問われる、たいへんやっかいで、難しい手法である。公・私/行政・民間/組織・個人など、立場を意にする主体が融合して、粘り強く再生に取り組める環境づくり=主に政治を行う側と政治を決める側の質的向上が、買い物弱者の解消に欠かせないのである。


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