現地・現場レポート
被災地の買い物を支える公共交通
復旧進む三陸鉄道(2)
2011年5月・望月社長インタビュー
三陸鉄道株式会社 望月正彦代表取締役社長 当時(今もであろうが)は復旧の陣頭指導で多忙な望月正彦代表取締役社長だったが、望外にインタビューの機会をいただいた。話をお聴きして驚いたのは、既にこの時点で、復旧への青写真(基本構想)はできあがっており、後はその実践に向けて実行あるのみという状況だったことである。国や県の支援を前提に、復旧工事の進め方を工夫して2年以内の復旧を可能にするというのだ。特に北リアス線については、レール敷設まで1年以内に可能になるとの見込を示された。
復旧を急ぐのは、公共交通としての基本的な役割を果たすことはもちろんだが、鉄道の持つハード的な資源が防災に役立つことが、今回の震災で明らかになったこともあるという。
「三陸鉄道は地形的な制約から半分がトンネルです。従って津波の被害を受けにくい。また、案外知られていないことですが、南リアス線の甫嶺駅周辺では築堤が防波堤代わりになって津波被害を軽減しています。現在、まちづくり計画では高所移転に伴う鉄道路線のルート変更が検討課題に上がっていますが、当社では防災に観点、それに早期の復旧が可能なことから、基本的に路線変更の必要性は小さいのではないかと考えています」。
岩手県北の環状交通ネットワーク
改札時間になり、宮古駅には大勢の人が集まる2014年に予定する完全復旧によって、復興はどれだけ進展するのだろうか。公共交通はどのような役割を果たしていくのだろうか。これについて、自社の経営体質強化を踏まえながら、
「復旧区間が拡大するに連れて、作業効率も格段に向上します。北リアス線で最初に復旧させる区間は、陸中海岸国立公園という景勝地にあります。団体観光に使用できるレトロ列車も久慈駅に2両を置いていますから、町おこしと連動しての教育列車的な活用も可能になるでしょう。さらに八戸線が復旧すれば、盛岡から北リアス線、八戸線、そして新幹線とつながる岩手県北の環状交通網が復活します。三陸鉄道はもちろんですが、公共交通機関を活用した地域再生が復興にもぜひ必要だと思っています」と決意を語ってくれたのである。
3グループで迅速に作業を開始
小本駅のホームに折り返しの車両が入ってくる 地震発生当日の対応について、振り返っていただいた。
「当初、普代から北側の状況はある程度把握できていたのですが、13日の午前までは大津波警報が発令されており、南側の海沿いのエリアには入れなかったのです。13日の午後に津波警報が解除され、私もすぐに点検に向かいました。宮古から普代までは、国道45号が不通で、裏道を走らせました。把握できた状況から、13日の夜には全路線の現状把握よりも、可能な区間からの復旧を優先させることに決めました。南リアス線は現場からの情報で復旧工事は容易ではないと分かりましたので、北リアス線復旧の先行を決定、翌14日から久慈〜野田間、次は宮古から田老、そして田老から小本と点検調査を進めました。その結果、田老の一部で線路を津波が越えてために、線路上にがれきや家の屋根が乗ったままといった状態でした。そこで市を通じて自衛隊に撤去を依頼しました。
社員は3つのグループに分けて対応を進めました。線路の補修を担当するグループは、がれきを撤去し、被害が小さい場所でも地震の影響でずれた砕石を整え、築堤の補修、トンネル点検等を進めました。もちろん、全区間部歩いて、目視しながらの作業です。そして車両や信号システムの動作を確認する運転関係のグループ、それに社員の一人が津波に流されましたが助かり、10人ほどが津波で家を流されてしまう状況で、要員や燃料の確保を担当するグループです」。
交通弱者の解消と防災機能の強化
三陸鉄道の本社がある宮古駅。駅前広場には、復興の祈りが込められたたくさんのこいのぼりと大漁旗がはためいていた 三陸地域は過去、何度も津波被害を受けたが、見事に立ち直り、復興を実現してきた。今回の東日本大震災では、津波に加えての原発被害も重なり、まさに国策としての復興事業が進められるべきであろう。国家百年の計というが、被災地の復興も短期、中期、長期で達成すべき内容が異なるはずだ。その際、人口減=公共的投資は抑制などという発想は禁物である。
「被害は確かに大きいが、地域と一体になっているのが鉄道です。沿線の市町村も全面復旧に向けて参加して下さっています。高校生や通院の方、いわゆる交通弱者が少なくない地域の暮らしには、鉄道がないと困る。ぜひ必要だと言って下さいます。南リアス線は津波と地震の影響から、線路や橋脚に大きな被害があって、復旧には予想外に時間が必要になるかもしれませんが、できるところから始めて、必ず全線を復旧させたいと考えています」。
「がんばろう東北!プロジェクト」チャリティイベントで寄せられたメッセージ「東北ローカル線 ご乗車・ご支援キャンペーン」告知ポスター宮古駅に貼られていた、長嶋茂雄氏からのメッセージリアス線の車内に貼られていた激励イラスト。他にもたくさん掲示されていた