コラム・メッセージ

第1回
ネットスーパーは“買い物の不自由”解消の本命か?
気になるITC、「ネコピット」と「iPad」(2/3)


ヤマト運輸の「ネコピット」


このテーマについて、興味ある報道を確認できる。ヤマト運輸が提供するネットスーパーサポートサービスである。得意とする配送のみならず、商品の発注に使うタッチパネル式の専用端末「ネコピット」を団地の集会所や自治会の事務所、病院等に設置して、買い物の不自由に悩む生活者(事実上、高齢者やクルマを自由に利用できない交通弱者である)に活用してもらう。発注、決済を含めたネットスーパーの仕組み全体を提供するサービス http://www.nekonet.co.jp/service/tsuhan/netsuper_index.htmである。

約1,500世帯、5,000人が暮らす福島県いわき市の泉ケ丘団地は、路線バスの廃止に続き、団地で唯一の小型スーパーが閉店したことから、マイカーのない高齢住民の生活環境は厳しさを増して、買い物難民化が進んでいた。自治会が毎週土曜日に朝市を開催するなどのサポートで尽力してきたが、買い物の不自由を根本的に解消するのは至らなかった。そこで、同自治会は2010年5月にヤマト運輸と福島県内の中堅スーパー(株)いちい(本社・福島市)が提携・展開するネットスーパー「いちいネットスーパー『ネット急便』」を利用できる端末機を自治会館前の世田谷美容室に設置した。福島県内のヤマト運輸直営店以外に設置するのは全国初の取り組みで、同時に福島市の保育園、白河市の宿泊施設にも設置されたという。(夕刊いわき民報 2010年5月14日記事より(いわき民報社)) 

生活自由度の違いが公衆端末の価値を左右


ネットスーパーはインターネット環境が前提で、パソコンや携帯電話のような高機能デバイスをある程度は使いこなせるスキルがないと、お店に“行き着かない”し、商品の選択、発注もままならない。デジタルデバイドがもろに起きてしまう構造を抱えている。利用は高齢者が中心となる泉ヶ丘団地の場合でも、ネコピットを設置した5月中、定期的に説明会を開催して操作の習得、利用の啓発と体験醸成を図ったという。

わかりやすいインターフェイスと簡単な操作性を用意しておけば、公衆端末は仲間といっしょにああだ、こうだとコミュニケーションしながら利用できるため、ITリテラシーを意識しなくてもすむ。買い物の楽しみも感じられるというものだ。

一方、公衆端末の名称が示すとおり、端末は公共空間に設置される。このため、その場所に利用者が足を運べることが利用の前提となる。従って、端末が自宅近く(日常生活圏)にあること、そこまで移動できる(歩行や外出に不自由がない)こと、家族、友人・知人などのサポートがある(コミュニティが生きている)といった条件を満たした生活者、生活空間に適したスキームだといえよう。利用促進には、団地付近、団地内の集会所というように、設置場所と利用者の距離を縮める工夫が求められる。
しかし、それ以上、もしくは以下の環境にある生活者にとっては、魅力の薄いサービスということになる。

自由度が高い生活に適合するiPad


まず、ITリテラシーが希薄でもそれをフォローできる、自分が買い物に行かなくても困らないような家族や仲間との良好な関係を持てる生活者なら、わざわざ端末を求めて移動したり時間を割く必要はない。発注に使う機器の理解、操作や使いこなしが課題となる。その点、デジタルデバイドの典型世代と位置づけられてしまった観のあるシルバー層の“汚名”をそそぐリーサルウェポンを我々は目にしている。アップル社の発売したiPadである。

iPadは同社のiPhoneと同じOS(オペレーティングシステム、Windows7やMacOSⅩのような機器を動作させる基本プログラム)を使用、使用できるアプリケーションもほぼ共通だが、携帯電話的な利用を想定していないため、画面が広く見やすい。老眼にはたいへんうれしい表示画像の部分拡大の機能がある。さらにキーボード、マウスを使わなくても指先で操作できる容易性(マルチタッチスクリーン)もある。目を更にして細かい文字を追わなくても、格段に読みやすい電子書籍や電子新聞、直感的にわかりやすい多数のアプリケーションや娯楽性の高いコンテンツの流通などにより、パソコンに敷居を感じて疎遠だった高齢層の興味関心を刺激することに成功しているようだ(NHKニュースウオッチ9「情報端末 意外な年齢層に」http://cgi2.nhk.or.jp/nw9/recommen2010/index.cgi(2010年7月19日)

画面にタッチすればたいてい事足りる簡単な操作性において、公衆端末とiPadは共通する。異なるのは、利用環境の違いで、iPadは基本的に個人の所有物であり、プライバシーに囲まれた環境で使用される。さらに公衆端末はネットスーパーの発注および所定のサービス利用に絞られているが、iPadは汎用性が高く、パソコンでやっていることのほとんどをカバーできる。

iPad的な情報機器は、今後マイクロソフト社からも発売されるようで、パソコン市場で一定以上の規模を獲得することになるかもしれない。

「モバイルネコピット」で利用障壁を緩和


ネットスーパーに対応した公衆端末の利用促進が、買い物難民の解消に役立つならば、公衆端末としての設置規模、接触機会の提供と確保が求められよう。それを決めるは、ネットスーパーの事業者である。発注が期待できる場所なら、何とか設置して需要を取り込みたいと考えるだろうが、その逆の場合は容易に踏み切れないはずだ。端末の設置・ランニング・メンテナンス経費の分担によもよるだろうが、現在のデフレ経済下、消費が伸びない状況で、薄利多売の業種がコスト割れになってまで取り組むとは安易に期待できないのである。

しかも端末の利用を歓迎している生活者は、高齢者世帯、しかも独居、家族や友人等のネットワークが細い、移動に不自由を抱えている環境にある可能性が高く、発注頻度は限られると見るのが自然だろう。

そこで考えられるのが、公衆端末の子機として、iPad的な情報機器をひもづける形である。現実にはネットワーク構築や通信料金の負担等、解決すべき現実問題もあるが、「仲間と集まって買い物を楽しむ」状況と、「ひとりであれこれ考えながら買い物をする」趣味を両立できる魅力もある。わざわざ公衆端末に足を運ばなくても、体調の芳しくない日は手元の操作で事足りる。やりようによっては、安否確認のコミュニケーションにも応用できるだろう。ヤマト運輸のネーミングを借りれば「モバイルネコピット」というわけだ。

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