コラム・メッセージ

第2回
心配な都会暮らし高齢者世帯
〜健康維持と移動の自由が生命線〜(2/3)


日常品、買回品に不満のない買い物環境


淋しくなるばかりの旧実家周辺だが、一時は1,200人規模の児童が通った小学校区である。それなりに買い物環境は整っていた。確かに個人商店が減少してスーパーマーケットに代わる動きはここでも同じだった。それ以上に、生鮮品や日用品は近所のお店、買い回り品はちゃんと「他所行き」に着替えてから、駅前に広がる中心地区の商店街および唯一のデパートに足を向けるというライフスタイルが定番になっていた。交通手段も当時は軌道系交通が駅前まで走っており、身近な電停だと日中約5〜7分に1本の運転だっかたら、利便性は例えば東京の地下鉄有楽町線と大差がない状況であった。思えばこの軌道系が姿を消したのが70年代の中頃、「電車通り」の文化が消失して、中心商店街の凋落が始まったように思う。廃止の理由は道路拡張で混雑緩和だったように記憶するが、廃止後には高速道路やバイパスが完成して、当時の電車通りの市内ルートが混むことはなくなった。

もちろん軌道系の後はバスがその役割を担うことになり、筆者も高校生だった時分、雨の日は利用していた。利用者は多く、ラッシュにふさわしい混雑を経験していた。

中心地区に大手流通小売店の進出ラッシュ


80年代が中心商店街のピークであろう。市街地中心地区の堅調な集客力に目を付けたGSMが続々出店を始めた。駅前のスーパーD、デパートの前にはスーパーJ、商店街の入り口にはスーパーN、隣接してスーパーS。皮肉なことに2010年に閉店を決めている大型テナントビルPが出店したのも当時であった。もちろん商店街も対抗して、改装や業態転換によって集客を強化しようとするお店もあった。

生活者にとって、中心地区、中心商店街はたいへん買い物を楽しめる空間であった。用途や目的によってお店を選ぶことができる。町歩きもそれなりに楽しい。これより前、1960年代の黄金期からすると、商店街はすでに衰退を始めていたのだろうが、まだまだ何とかできるような雰囲気もあったように思う。

さて当時、母親は駅前に近い場所にオフィスがあって、ただし日々の生鮮品や食料のような買い物は祖母の役割だったから、道草をすることなく帰宅していたようである。しかし給料日の頃は、デパートやスーパーのショッピングバックを片手に帰宅していたようだ。実家にはクルマがなかったが、それほど困るような事態はなかった。当然、買い物弱者など思いもよらぬ事態だったのである。

急速に進む郊外へのにぎわい集積シフト


acade.jpg中心商店街のシャッターの閉まった商店。 これが当たり前と認識するのが自然なのだろうか。やがてバブルが崩壊、低成長時代が到来する。定年後も嘱託で勤務していた母親は祖母の体調悪化により退社、介護に専念するようになる。買い物の場所は、祖母と同様の自宅から徒歩4、5分程度のスーパーマーケットに集中するようになるが、やはり勤め人時代のアフターファイブの習慣が抜けないせいか、週に1度は百貨店に足を運んでいたようである。また、本人は運転できなかったが、自分の子供のような世代の同僚がクルマで県内市内あちらこちらの話題のスポット、グルメに連れて回したようで、たまの帰省時、筆者と食事にと外出する場合など、母の持つグルメ情報量には驚かされたものである。

この頃、A市の商業施設は郊外に巨大な拠点が形成され、道路網が整備されたこともあり(90年代まで高速道路が1mもないという状況だった)、旧市街から郊外への人口移動、あるいは郊外をはじめ近隣市町村での分譲住宅地の一次取得が急速に進んだ。次第に旧市街地から馴染みの住宅、人の姿が消えて、比例するように中心商店街の衰退が空き店舗、シャッター店舗のように一般の目に見えるようになってくる。2000年代になると、ついにA市の駅前集積の地盤沈下を示すように、進出してきたスーパーマーケットが次々に閉店を発表する。企業そのものの存続が危ぶまれたスーパーD、破綻してしまったスーパーNなど、低成長時代の不況の影響は「撤退」という形で、市民にその厳しさを見せつけたのである。

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