施策・活動の提案

第1回
自動車販売業(新車ディーラー)(3/6)

訪問営業からの撤退から継承されにくくなった顧客情報


新車ディーラーが数千店のネットワークを有している分、全国津々浦々、店舗のスタッフがコミュニケーションできない生活地域はほとんどありません。テリトリーの広大な北海道であっても、以前は遠距離にある顧客宅を定期的に訪問するのが当たり前でした。

売れない時代になって、営業効率最優先のマネジメントが主流となってからは、自ら顔を出すより顧客にお店に来てもらう「来店総合営業」が主流となって、その分、“自動車購入難民”が増えています。点検・修理であっても「納引」(顧客宅でクルマを引き取りに出向き、完成後は届ける)が慣例でしたが、現在はよほどの好関係を持つ顧客(つまり必ず購入してくれる)または利幅が大きな高級車(高額車)向けの限定対応になりつつあります。

点検入庫率-1.jpg点検入庫率(%:乗用車店、:自販連調査、09年)営業活動の効率化・コストダウンに成功しましたが、7年後の次のクルマを買い換えてくれる日まで顧客との関係を維持するには厳しいようです。自販連の調査でも、年月が経過するとともに法定点検の入庫が減っている=顧客とのコミュニケーションが途絶されている事態が報告されています。

意外かもしれませんか、新車ディーラーの営業マンというのは、顧客の事情をよく知っています。つきあいが良好で期間も長くなると、顧客本人からの紹介客だけで販売実績を残せるようにもなれます。顧客本人だけでなく家族、周辺の人間関係を知ることにも熱心です。生活や気持ちの変化で、いつクルマを買う気になってくれるのかわからない。チャンスは確実にあります。それを見つけられるように、「情報」を積極的に収集、接触の基盤とする顧客データベースマーケティングを実践しているのです。 

クルマ販売は、購入決定まで手間と時間がかかる「大型商談」


自動車は高額、気に入ったからすぐレジで精算する類の商品ではありません。見積や法的書類の作成が必須となる「提案商品」です。顧客は納得しなければ発注書にサインをしませんから、説得のための時間を覚悟しなければなりません。これを「大型商談」と呼び、日用品や生鮮品などの「小型商談」とは異なる販売スキルが要求されるのです。

不景気の現在、新車の購入頻度は平均で7年に1度くらいですから、激しい競争のなかで顧客を逃さないためには、最低でも7年にわたる長期のリレーションシップを構築して機能もさせていきます。ライバルは待ってくれません。顧客はいつ気が変わるのか、クルマを欲しくなるのか、完全にはわかっていません。理論的な整理を超えた、“買い時”があります。それを逃さないために、営業スタッフは顧客との生きた関係をつくって、長期間維持しようとするわけです。
せっかくの良好な関係が自らの都合で頼りないものになって、接触機会が失われ、情報もまたクリーニングされない。顧客が望んだわけでもないのに、いい加減なマネジメントで放置、いつしか関係が失われてしまう。運営的なミスはいくらでも改善できます。

しかし、クルマと生活密着度は高く、クルマニーズは確実に存在するが、購入頻度はかなり小さく、購入車種も軽自動車や商用車ばかりである。こんな傾向が続くと、ミスではなく意図的に関係を薄めていると疑ってしまう事態も見かけます。来店は歓迎、しかしこちらからおうかがするのは遠慮するというスタンスです。
受動的な接触を失った顧客は、新車ディーラーを離れて、近隣で新車も販売をする自動車整備工場(モータースと呼びます)やガソリンスタンド(これもまた次々に姿を消していますが)との関係を深めるようになります。
こうした「疎遠」の発生、営業スタッフの足が遠のく顧客宅は、残念ながらお店から遠距離で、周辺に顧客がまとまっていないエリア(訪問効率が上げられないエリア)から始まってしまいます。次に営業スタッフの中心世代である30歳代が、うまくコミュニケーションをとりにくい、苦手な高齢者世帯の顧客宅に広がります。若い世代は、祖父・祖母との生活体験が少ないために、どうしても自分が話しやすい同世代または親の世代に顔が向いてしまうのです。

中高年スタッフの経験、スキルが伝わらないままに定年


「大型商談」を基盤とする販売スタイルには、店舗空間の秀逸性も大事ですが、それ以上にスタッフのポテンシャルが問われます。顧客は大理石のショールームを忘れても、営業スタッフはよく覚えます。容貌風体はもちろん、商品知識の有無、接客応対の巧拙、ニーズ把握の的確性、提案のわかりやすさや妥当性、多少のわがままを享受する懐の深さ、かゆいところに手が届くフォロー、定期的なコミュニケーションでの安心感。こうしたスキルを営業スタッフ一人当たりが数百組を担当して毎日、高級ブランドを扱う輸入車店では24時間365日間実践していくのです。ハイレベルの体力、知力そして経験が求められます。退職者が多いのも仕方がないと感じます。

人=スタッフという店舗最大のリソースをどのように活かしていくのか。マンパワーやスキルによってどんなクルマ(不人気車)でも売ってきたベテラン層、中高年層スタッフのノウハウをどのように伝承するのか。
営業スタッフの出世競争は、標準的には大卒後入社、チームワークと個人のスキルアップに励み、やがて35歳〜40歳(経験15年ほど)で店長(あるいはマネージャー)が見えてきます。この時期を逃していまうと、統計的に店長クラスに出世できるチャンスはかなり限られてしまいます。やがて50歳頃に、店長から本部管理職へと異動する一方で、店長に次ぐナンバー2のベテランは曖昧なポジションのまま定年まで過ごすことになります。
店長は、業界の営業職にとってトップのポジションなのです。最近はサービス部門の出身者からも増えており、その就任はたいへんな勝ち残りだといえるでしょう。店舗数は減っているのですから、いくら新卒募集を抑制しても、狭き門であることには変わりありません。

非正規ながら再雇用して、ベテランのノウハウを教えていく


「オジさんたちは高給ばかりとって売れやしない。来週から中古車の担当だな」関西圏でも大手の販売会社のトップが僕に語った言葉です。ここまで極論ではありませんが、経営層にとって中高年の活用は重要な経営テーマと認識しつつ、結果的にはコストアップ要因に過ぎないから不要とドライに割り切ろうとする雰囲気があります。同族経営の場合、現トップは創業者の孫世代に移りつつあります。社内の中高年層との一体感は先代ほど持ち合わせていません。

では、新しい世代は順調に育っているのでしょうか。悲しいことに、若年層のパワーは年々落ちているのが実態です。販売会社はメーカーの協力で手厚いOJTや教育研修を課しているのですが、期待したほどの成長が見られなくなったようです。教育というより、これは日本人、日本社会の劣化の反映かもしれません。
そうなると、高給取りの中高年は早く整理したい→若い世代の成長が思ったほど伸びない→顧客との疎遠化は販売ターゲットの消失を意味→なんとか実績は確保したい本部・店長の意向もあって、中高年スタッフのノウハウを何とか吸収しておこう、もう一度彼らを活性化させて実績を伸ばそうという目論見から、「ミドルエイジスタッフのがんばり」が求められることになりました。ただし、実績主義、最低限のコストで。

実際に中高年スタッフの非正規雇用が増えています。自販連によれば、2008年の新車ディーラー(乗用車店)における非正社員の比率は8.7%、このうち定年退職者は20.7%を占めるまでに増加しています。経験とノウハウを次世代に引き継いだところで引退。それでも雇用的には恵まれているのかもしれません。サービススタッフの場合は、ハイブリッドカーや電気自動車のように新しいテクノロジーの登場とコンピュータ診断のようなITを駆使した整備作業、また作業工程の標準化が進み、ベテランの経験から不具合を見つけ出し解消するようなチャンスが失われています。中高年のベテランメカニックがスキルをアピールできる場が減っているのです。


ENTER

お問い合わせ・ご相談・ご意見などは
「空間通信 生活・買い物弱者対策チーム」までメールにてご連絡ください。

skjforum★space-press.com

【★を@に変えてお送り下さい】詳しくはこちらLinkIcon

New_Icon_rd_01.png
■2014.4.18 リンク集に2013年の動向を追加しました

■2013.3.22 現地・現物レポートに「都心と郊外の団地に見る、高齢化の実情」を追加しました

■2012.4.18 現地・現物レポートに「健軍商店街 らくらくお買い物システム」を追加しました

■2012.4.18 レポート「被災地の買い物を支える公共交通 復旧進む三陸鉄道」を追加しました

■2011.10.6 ライブラリ「東日本大震災 被災地 買い物支援の動きまとめ」を追加しました

■2011.1.14 コラム「心配な都会暮らし高齢者世帯」を追加しました

■2011.1.14 ライブラリ「各界の時系列動向」を追加しました

■2010.10.12 第37回国際福祉機器展H.C.R を追加しました

■2010.9.28 農林水産政策研究所 食品アクセスセミナーを追加しました

■2010.9.27 現地・現場レポートに 「こま武蔵台」を追加しました